命をかけて日本人を救出したトルコ

2013年03月10日 17:46

2013年2月24日、元トルコ航空機長、オルハン・スヨルジュ氏が亡くなられた。
スヨルジュ氏は、イラン・イラク戦争の時、テヘランに取り残された日本人を救出してくれた日本の大恩人である。
謹んでご冥福をお祈りするとともに、何度か触れてきたこの出来事を今一度詳細に紹介したい。


1985年3月17日、イラン・イラク戦争の最中、サダム・フセイン大統領が以下の声明を発した。
「1985年3月19日以降、イラン領空を通過する航空機は民間機と言えども安全を保証しない」
フセインはイラン側の迎撃機に業を煮やし、ついに無差別攻撃の警告を発したのだった。

タイムリミットは48時間。
イランに在留していた外国人は、日本人も含め脱出の為、テヘラン郊外のメヘラバード空港に殺到した。

欧米各国の旅客機は、自国民を優先して次々と飛び立っていく。
当時日本の旅客機は乗り入れていなかった。
日本人だけが取り残されていく。

政府は全日空や日本航空に特別便の手配を依頼したが、拒否された。
「航空機の安全が保障されない」という理由で。

かといって自衛隊機は法律上使う事ができない。

時間だけが過ぎ去っていく。

万策尽きたかと思われた時、思わぬところから救いの手が差し伸べられることになる。
トルコ政府とトルコ航空からであった。

伊藤忠商事の森永尭氏は、当時イスタンブールに在住し、トルコの首相オザル氏と個人的親交があった。
その彼に、一民間人の彼に突然の依頼があったのである。
「テヘランにいる日本人を救ってくれるようトルコ政府に働きかけてくれ」と。

森永氏は、全く関係のない第3国のトルコに、危険を冒してくれと頼む不自然さをいぶかしく思い、また困惑した。
しかも、トルコ人もまだ600人以上イランに在留していたのである。

しかし、悩んでいる暇はなかった。
何しろ時間がない。
森永氏は、理屈をわきに置いて、気持ちだけでオザル首相に依頼したのだった。
「トルコ航空を在留邦人の為に派遣してください!」と。

事情を聞いたオザル首相は、自国の事情や第3国に話が回ってくる不可解さ、そういったことを何一つ言わず、ただ一言、
「わかった。心配するな、親友のモリナガさん。後で連絡する」とだけ告げたのだった。

数時間後、オザル首相から連絡があった。
「全てアレンジした。心配するな。親友のモリナガさん」
森永氏は歓喜した。

トルコ航空はこのフライトに、手持ちのもっとも大きな旅客機DC10を使い、元空軍のパイロット、スヨルジュ氏を機長に起用したのだった。
つまり最高のカードを切ったのである。

いつ撃墜されても不思議ではないイランの空を、トルコ航空のDC10が飛ぶ。
日本人の待つテヘラン・メヘラバード空港へ。

いくつもの航空会社に拒否されてきた日本人たちは、DC10がついても疑心暗鬼のままだったが、トルコ航空のカウンターで搭乗券が発給されると、フロアは歓声に包まれた。

最短の滞留時間で離陸し、トルコを目指す。
トルコーイランの国境、聖書で有名なアララト山を越え、トルコ領空に入ると、スヨルジュ機長はアナウンスした。
「ご搭乗の皆様、日本の皆様、トルコにようこそ!」
このアナウンスに全搭乗者がどよめき、大歓声を上げた。
危機を脱したのだ。生命の危機を。

イスタンブールに着いた時、日本人全員がトルコ航空のスタッフに向けて拍手を捧げた。
この音は、コックピットにいたスヨルジュ機長の耳にまで届くほど大きなものだったという。

後日譚

全く関係のない国民の為に命をかけてフライトした、スヨルジュ機長を初めトルコ航空スタッフ。
何も言わず日本の頼みを受け入れたオザル首相。
この心意気に少しでも応える為、小泉首相はこの時の関係者全てに叙勲を授与した。
これだけ大量の叙勲も異例のことである。
スヨルジュ機長は旭日小綬章を受章している。

当時600人以上イランにいたトルコ人は皆、陸路3日かけてイランを脱出している。
日本人がトルコ航空に救出されたというのに、である。
しかし、このことはトルコ国内では当然のことのように全く問題にならなかった。
「親日」の一言ではかたずけられないトルコ人の美徳だと思う。

また、森永氏が後年、トルコ航空総裁に、何故あの時日本人を助けてくれたのか、と問うと総裁は、
「日本人の安全の保証がなかったから。一刻も早く日本人を救出するため、救援機をだした」と述べている。
航空機の安全が保障されないから、と特別機を断った日本の航空会社と、日本人の安全が保障されないからと救援機をだしたトルコ航空。
“安全保障とはなにか”を考えさせてくれる。

なにはともあれ、日本人はこの事実を忘れてはいけない。

ありがとう、トルコ。
ありがとう、オルハン・スヨルジュ機長
やすらかに。
オルハン

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