2013年08月18日 15:27

■ 視察 ■
菅直人がなぜ、震災直後の福島第一原発に視察に行ったのか?
いろいろと言われているが、私は、「菅直人が現場を自分の眼で見て安心したかっただけなのではないか」と思う。
情報が途絶したため状況がわからず、またこちらからの指示が伝わっているかも定かでない中で、猛烈な不安感に襲われた菅は、それを払しょくする為だけに福島第一原発に行った、菅の性格とその後の行動、当時の状況から、そう考えると全てが腑に落ちる。
菅が自衛隊のヘリに乗り込んだが、震災翌日の3月12日朝6時14分。
斑目原子力安全委員会委員長が同行していた。
菅が機内で斑目委員長にした質問の一つにこういうものがある。
「東工大に原子力の専門家はいないのか?」
菅は東工大の出身、だからこういう質問になったのだろう。
国家的危機の時に学閥というか愛校精神というのか、常軌を逸している。
ヘリが福島第一原発のグラウンドに到着して、みな降りようとしたところ、
「まず総理だけ降りますから、すぐには降りないでください」
と指示されたという。
総理が現地に視察に来た事を撮影する為だ。
一刻を争う時にパフォーマンスをやっていたわけだ。
グラウンドには、東電の武藤副社長が、菅を出迎えるために待っていた。
その武藤氏に対して菅は出会う早々挨拶もなく
「なんでベントをやらないんだ!」
と怒鳴りつけた。
移動の為バスに乗り込んだ後も、武藤氏に対して激高し続けたという。
しかも、同乗した斑目委員長や池田議員とも、なにを言っているのか分からなかった、と証言している。
怒り過ぎて何を言っているか解らない状態になる男が総理大臣だったのだ、これは恐ろしい事だ。
吉田所長が指揮をとる“免震重要棟”に移動するまでの間に、一行は放射能に汚染される。
だから入り口で除染をしなければならない。
そうしないと“免震重要棟”の中までもが汚染されるからだ。
担当社員が一行に、「靴を脱いで手に持ってください。まず汚染検査を受けてください」と話すと、
「なんで俺がここに来たと思ってるんだ!こんなことをやってる時間なんかないんだ!」とフロアに響き渡る大声で怒鳴った。
何様だと思っているのか。
ついに吉田所長と菅の対決。
武藤副社長に対するのと同様に挨拶もなく
「どういうことになっているんだ!」
と怒鳴る菅に対し、吉田所長は臆する事もなく現場の状態を説明した。
吉田所長の説明でようやく菅は少し落ち着いたのだった。
吉田所長が東工大出身だったことも手助けしたのかもしれない。
落ち着きを取り戻した菅はヘリコプターに乗り込み、8時4分離陸。
官邸へ戻って行った。
この間約1時間半、吉田所長の要請を受けて福島第一原発の入口まで来ていた陸上自衛隊第六師団第六特科連隊の消防車は、待たされ続けたのだった。
この視察で得られたものは何だろう?
菅の“落ち着き”のみのではないか?
失われたのは原子炉を冷やすための貴重な時間、収支はどうか誰の目にも明らかだ。
ただし、東電本社の対応のひどさが、菅をこの行動に駆り立てた面も否定できない。
■ 海水注入中断指示 ■
吉田所長は早い段階から、原子炉を冷やすために海水をいれるしかない、と考え手を打っていた。
自衛隊の消防車が到着し、海水を入れることができるようになった。
これにより、最悪の事態が避けられたのは紛れもない事実だ。
しかしその注水の最中、官邸から東電本社を経て、注水中断の指示が届く。
そういう連絡が来る事を、「官邸がグジグジ言っている」という武黒フェローとのやり取りで予期していた吉田所長は部下にこう指示を出している。
「本店から海水注入の中止の命令が来るかもしれない。その時は、本店に(テレビ会議で)聞こえるように海水注入の中止命令を俺が出す。しかし、それを聞きいれる必要はないからな、おまえたちはそのまま海水注入をつづけろ。いいな」
このような腹芸をしなければいけない状況に現場を追い込む官邸とはなんだろうか。
海水を注入すると再臨界の恐れがあるという荒唐無稽な話で中断と言う指示になったのである。
これは斑目委員長の助言の仕方か悪かったのか、受け取り方がおかしいのか、いずれにしてもプロフェッショナルの集まりである現場に、素人の官邸が、ベントや海水注入など、こんな細かい事まで指示を出す必要はないのである。
吉田所長の剛毅な裁量で事なきを得たわけだが、気弱な人が所長で官邸の指示に従っていたら、原子炉爆発は避けられなかったであろう。
■ 逃げられないぞ ■
放射能から日本を救った会津魂で触れたが、菅が東電に乗り込み行った有名な約13分の演説。
ここに至ったのは、上述の海水注入の話と同様、説明の仕方が悪いのか、受け取り方がおかしいのか、東電が撤退するという誤解から始まっている。
東電としては、600人からいた福島第一の免震重要棟の人員を、作業に必要な人数だけを残して撤退するという話であったのが、いつのまにか東電が全面撤退するという話になり、またしても激昂した菅が、東電本社に乗り込んだのであった。
「事故の被害は甚大だ。このままでは日本国は滅亡だ。撤退などあり得ない!命がけでやれ」
東電本社の人間だけではなくテレビ電話を通じて福島第一原発にも流れている。
「撤退したら東電は100%潰れる。逃げてみたって逃げ切れないぞ!」
すでに命をかけ、高線量の中建屋に突入している人間に、野外で作業をしている人間に、そして責任者として最後まで残ると決めている人間に、菅は言い放ったのである。「逃げ切れないぞ」と。
彼らが今更東電がどうとか、頭にあるはずがない。
この言葉を聞いた現場の人の気持ちはどうであっただろうか。
やりきれない気持ちになったのではないか。
一国の総理が言うべき言葉ではない。
人は、自分がやりそうな事を他人もやるのではないかと疑う。
総理大臣と言う責任から逃げたいと菅は思っていたのかもしれない。
自分は逃げられないのに東電は…という気持ちが、この激昂に繋がったように思う。
1つだけ菅を擁護すれば、日本の1/3が住めなくなるかもしれない、という状況で最高責任者であるという責任の重さは半端ではないだろう。
それを背負っていたのだから、と言う面では同情できる部分もある。
ただ、総理になるというのはそういう事だ。
現在菅は反原発活動に熱心だ。
これだけの体験をしたのだから、反原発に向くのも分からないではない。
しかし、反原発の前に事態の終息と復興をしなければいけないだろう?
菅が総理在任中もその後も、復旧・復興に熱心だというのは聞いた事がない。
あの時に福島第一に行くのなら、今現場に行ってがれきの一つでも片づけてきたらどうだ、と思わざるを得ない。
菅の「反原発」はあの事故からの“逃げ”に見えて仕方がない。
あなたがあの時言い放った「逃げられないぞ」という言葉、そっくりそのまま返してやりたい。
逃げずに逝った吉田所長のためにも。
参考文献
PHP研究所
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